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Channel: ラジオ・エチオピア
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小山田浩子『穴』

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文藝春秋3月号は、芥川賞が150回を迎えるということで、記念大特集を組んでいました。
実は今回の受賞者を含め、ここ10年ほどの芥川受賞者には、ある世代がひとかたまりで出てきた感があります。それは198384年生まれの女性たちです。
 
2004年の芥川賞は、綿矢りさ、金原ひとみの1920歳のコンビが受賞し大きな話題となりました。
その後も2007年の青山七恵、2010年の朝吹真理子と続き、今回受賞したのも1983年生まれの小山田浩子さんです。
受賞はしていないものの、候補に3回(直木賞候補を含めると4回)上っている島本理生を含めると、この10年ほどで83年、84年生まれの女性作家がひとかたまりで出てきた、という感じです。
 
昔だったら「第1次戦後派」とか「第3の新人」とか、そういったかたまりを指してネーミングされるところでしょうが、この8384年組はなんとネーミングしたらいいんでしょうか?
 
今回受賞された「穴」は、安部公房の「砂の女」が醸し出す不安感と、青山七恵の「ひとり日和」が持つ的確な観察眼が細部に行き渡っていて、とても完成度の高い作品になっています。
 
夫の転勤を機に、夫の実家の隣に引越したことから、現実が奇妙なざわつきとともに歪んでいきます。蝉の声がしつこく描かれていて、人気(ひとけ)のない静けさを打ち破り、不穏な通奏低音として小説の中に流れています。
 
登場人物も不気味ないろどりに染められていて、「本物の現実」であれば、一番不安をあおる義兄の存在が、一番まっとうに見えてくるマジックが施されていて、我々が何気に見過ごしている現実の実相が浮かび上がってくるように描かれています。
 
1983年生まれ、恐るべし、です。

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