50歳を過ぎて、それまでわからないまま自分の中で放ったらかしにしておいたことが、ある問題をきっかけに一気にわかるようになる、ということがあります。
学生時代、ある先生の講義の最後のほうで、こういう意味のことを仰られました。
「善く生きることは幸せな生であり、筋道を通して考えることを身につければ、誰でも幸せになれるんです」
しかし、若い私はこの問題をまるで数学の答えを求めるような尖った思考で捉えていたため、本当の意味でよく理解できていなかったと思います。しかし、この言葉だけは私の中にずっと残っていました。
あれから30年、私はある問題を考えるためにこの本を読んだのですが、30年前にあの先生が仰られたことがとてもよくわかったように思いました。読み終わったとき、もっと早く読めばよかったと思いましたが、この歳で読んだからこそ、よく理解できたんだろうとも思いました。
『幸福な人とは、客観的な生き方をし、自由な愛情と広い興味を持っている人である。また、こういう興味と愛情を通して、そして今度は、それゆえに自分がほかの多くの人びとの興味と愛情の対象にされるという事実を通して、幸福をしかとつかみとる人である』
他の幸福論と違うところは、ラッセル自身が分析哲学に大いに影響を与えた哲学者であるため、宗教的観点からの話ではない、ということです。
とてもいい本で、多くの人に読んでほしいと思いました。