著者の苅谷剛彦氏は、1995年「大衆教育社会の行方」で、親の社会的地位と子供の学力が深い相関関係を示す、いわゆる“格差社会”について、膨大なデータを駆使して日本で初めて指摘した人です。
この本は、その著者が、オックスフォード大学へ研究者として赴任した経験を元に、日本の大学とオックスフォードを代表とするイギリスの大学における教育の違いについて書いたものです。
日本が明治以来の「知識伝達の効率性を目的にした大学教育」であり、その中身が「講義を中心にそれぞれ単調な学習が、数多く複数同時に進行する大学教育」とすれば、イギリスの大学は、「大量の知識を文献という形で提示した上で、それを短期集中で学生が読むという行為を通じていったん自分のものとし、さらに、その知識を用いて毎回の課題に答える『書く』という学習が続く。(中略)今度はそうやって表現された学生の理解や思考に対し、個別指導の場で、教師からの質疑や学生との議論が、さらなる働きかけをする。その過程を通じて、読み取り方、考え方への評価や新たな視点の提示が行われるのである」と述べています。
“an educated citizen=教育された市民”とはどういう人を指すのか、なぜそういった人物の存在が必要なのか、日本の高等教育のあり方について考えさせられる本でした。